2013/06/21 新国立劇場『象』稽古場レポート

日本の不条理演劇を確立した第一人者で劇作家、小説家、
エッセイスト別役実さんの初期の代表作『象』(1962年初演)。

2010年、新国立劇場にて深津篤史さんによる斬新な演出で
上演されたこの作品を、さらに磨き上げ、練り上げての再演!
衝撃作・『象』稽古場の様子をレポートいたします。






起承転結、安心してみていられる“わかりやす~いお芝居”が好きだったりするので、
“不条理”の響きに、正直、ちょっと身構えながら、お稽古場へ足を踏み入れました。
でも・・・。

まず、目の前に広がるのは、(初演同様とのことですが)舞台一面に敷き詰められた
古着、古着、そして古着。
その景色に圧倒される取材班を尻目に、通し稽古が始まります。


古着、古着、そして古着

個々の俳優さんはリラックスしている様子でしたが、部屋には独特の
緊張感が充満しているような、これが深津さんのワールドでしょうか。

『温室』(演出:深津篤史さん)おけぴレポでもご紹介した、
台本上の特定のワードを声に発しない、秘密のメモが
渡されるなどといった手法は健在のようです。

ここでざっとあらすじをご紹介(作品HPより)。


入院中の「病人」をその甥である「男」が訪ねてくる。
「病人」は広島への原子爆弾による被爆者で街頭で裸になって
背中のケロイドを見せ喝采を浴びていたが、
既に病状が悪化し今は入院をしているようだ。
二人の会話から「男」も被爆者であることが明らかになる。

男  :静かに死んでしまいたいとは思いませんか?
病人:思わないね。俺はむしろ、死ぬ前に殺されたいと思っている。
男  :何故?
病人:知らん。情熱的に生きたいのさ。

「病人」はまた元気になってあの町でケロイドを見せたいと願っているが、
「男」は静かにそのときを待つべきだと主張する。
二人の生き方の違いを主軸に据えながら、
「病人の妻」、「医者」、「看護婦」など二人をとりまく様々な人々の姿から、
原爆病者の抱える問題、それをとりまく世の中の問題が垣間見えてくる。

登場人物に名はなく、「病人」、「男」などなど、この何とも言えぬ
浮遊感が、嗚呼“現代演劇”?!

そんなことを考えていると、
雨音(効果音)に紛れ、詩的な言葉が確かな声で聞こえてきました。


木村了さん

声の主は「病人」の甥、自らも被曝している「男」を演じる木村了さん。
言葉がしっかりと発せられれば発せられるほど、静かに死を待つ「男」の
さみしさが広がる。

これまで抱いていた美しさ、瑞々しさという木村さんの魅力に確実に
何かが加わった「男」がそこに居ました。


大杉漣さん

対して、喝采を浴びたいと切望する「病人」には大杉漣さん。
「病人」という設定に違和感を覚えるほど、エネルギッシュ!

ちょっととぼけたような柔らかな語り口は耳に心地よく、
何かに執着し、渇望するような心の底からの思いを吐き出す時の、
その声の響きと“気”の引力たるや、息をするのも忘れてしまうほど。
緩急以上の、3次元、4次元?!的な万有引力であらゆるものを惹きつけます。

この背中合わせの様な二人の登場人物に関わる人々も非常に・・・不思議。
「病人の妻」に神野三鈴さん。


神野三鈴さん、大杉漣さん

声、仕草、目線、佇まい、どれをとっても柔らかい「病人の妻」です。

おにぎりや沢庵を巡る、この夫婦の会話も、一見つじつまが合っていないようで
実は日常会話ってこんな感じだったりして。
なんて思えるほど、リアリティを感じさせるお芝居です。
(実際、病院のベッドの上でおにぎりって、日常ではないんですけど)
柔らかくて、しなやかで、強くて弱くて、生々しい「病人の妻」です。


「看護婦」には奥菜恵さん。


奥菜恵さん

美しいです。無機質とも思えるような、透明感。
吸い込まれるような瞳に、
深い深い絶望を秘めた、近寄りがたい美しさがありました。


「通行人」には山西惇さん。

山西惇さん

TVでもおなじみ、軽妙な空気で、登場するたびに恐ろしいほどの存在感を
示す山西さん。

自然体なのか、何かを取り繕っているのか、本当はものすごくどす黒いものを
隠しているのか。得体のしれない怖さも感じます。
観る人ごとに、観るたびごとに印象が変わりそうな「通行人」です。

そして、「医者」には羽場裕一さん。

羽場裕一さん

温厚で、やさしくて、明るい「医者」。
とても善人っぽい、だって“お医者さん”だし。
でも、一番謎めいていたのが「医者」でした。
白衣を着ていたら「医者」、でもそれを脱いだ時は・・・。
彼は「医者」なのだろうか。





同じ“場”に居ながら、線にはならず点のような関係の人々。
この作品は今から50年ほど前に書かれ、“被爆者”を描いています。
雨や水、赤い月、そしてたくさんの古着も、そこに向かっているのかもしれません。

ただ、そこから見えてくるのは、
想像を超えた大きな出来事があった後、
抗えない何かを背負った人(当事者)と、その周囲、社会(傍観者)の関わりです。
それは極めて今日的なテーマで、今だから感じられることがたくさんあります。

善と偽善のボーダーラインは?
無関心は悪なのか。
無関心を望むことは不幸なのか。
誰かと繋がっていないと、存在が証明されないのだろうか。

“不条理”から見えるものも確かにあると、
(とはいえ、その全てをわかったとは言い難いのですが)
そう感じることができました。


こうして、浮遊感で始まった通し稽古見学は、
気が付けば大きな大きな現実をドカンと突きつけられたかのような、
独特の衝撃で幕を閉じました。

みなさんは、どうお感じになるか。
ぜひ、劇場で味わっていただきたい作品です!

そんな『象』の演出は深津篤史さん。


深津篤史さん

実はこの日の通し稽古では、キーワードともいえる“ケロイド”などの
言葉を発することが禁じられていた様子。

台本には記されたその言葉を口に出さないことで、
逆にその存在がありありと浮かんでくる。
これは演じ手からしても、何か新しいものが見えるのでは?
そんな、手法が生み出す面白さも印象的な稽古場でした。

最近は、わかりやすいお芝居も多いですよね。
もちろん、それも大好物なのですが、
たまには、ちょっとわかりにくいような作品で、頭の回路をつなぎ
直してみるのも、刺激的ですよ!!

何か、ひらめいたりして!!


【公演情報】
新国立劇場『象』
2013年7月2日~21日@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作:別役 実
演出:深津篤史

<キャスト>
大杉 漣/木村 了
奥菜 恵/山西 惇/金 成均/野村修一/橋本健司/神野三鈴/羽場裕一

公演HPはこちらから



おけぴ取材班:chiaki(文)mamiko(撮影) 監修:おけぴ管理人

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