「ミュージカルに対してアウェイ感は全く持っていないんですよ。
逆にホームグラウンドに帰るぐらいの気持ちでいます。原点ですから」(森山開次)ヴァンパイア・ダンサー:森山開次さん
ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』2015年公演より
森山開次さんインタビュー前編では『サーカス』公演についてお話をうかがってまいりましたが、後編ではすこし話題を広げて、
ダンス、そして
ミュージカルについて伺います!
ミュージカル?!とお思いのみなさん、そうなんですよ、ミュージカルです♪
森山開次さん
--ダンス公演というと、何をするかはもちろんですが、どのような“場”“空間”を作るかも非常に大事になってくるように思います。今回の『サーカス』ではどのようなイメージをお持ちですか。森山さん)まず“サーカス”というとテントというイメージがあるので、劇場自体がテントっぽいイメージを持っています。その中でどのような場を作っていくかになりますが、“芸術鑑賞”のような堅苦しいものではなく、みんながリラックスして楽しめる場、演出にしたいと思っています。
その空間自体も楽しんでいただきたいですね。--ちなみに本番で舞台に上がった瞬間に思い描いていた“場”と違ったという経験もありますか。森山さん)出たときに「なんだろうこの空間、やばいかな」ということもありますよ(笑)。
でも、僕は
“その場と見ている人の空気”と一緒にありたいと思うんです。もし想定していたものとギャップがあったとしても、それも楽しんでやれるような余裕を持っていたいです。
場ということでは、昔、音楽のようにもっと街や日常にダンスが溢れていたらいいなと思ってストリートパフォーマンスに出たりしていました。
ダンスで作品を発表するというと、どうしても難しく考えてしまいがちなのですが、今もこの社会、世の中で、自分がどうやって踊るのか、それだけでいいのかなって。それはテレビの中かもしれないし、自然の中かもしれない、劇場でも。
ただ、昔から外で踊るのは好きですね。僕の根底には開放的なところで踊りたいという思いがあるのかな。
--そして、ダンス公演とはまたちょっと違う“場”となるのがミュージカル!11月には『ダンス・オブ・ヴァンパイア』にヴァンパイアダンサーとしてご出演です。
“驚異のダンサー”と称される森山さんですが、実は表現のスタートはミュージカルなんですよね。森山さん)はい。
ミュージカルに対してアウェイ感は全く持っていないんですよ。逆にホームグラウンドに帰るぐらいの気持ちでいます。原点ですから。
僕は大学2年生の時に音楽座『マドモアゼル・モーツァルト』を見て感動して、研究生としてミュージカルの世界へ飛び込みました。恥ずかしい話、初めて舞台を見たのがそれだったので、もしその時、芝居を見て面白いと思っていたら演劇の劇団に入っていたかもしれないんです。
それも今思えばタイミング、出会いですよね。
--ミュージカルには一般的に歌、芝居、ダンスという3つの柱がありますがその中でダンスの道に進んだという感じでしょうか。森山さん)最初はどちらかというと歌と芝居のほうに興味はありました。そこを頑張らないとミュージカルの世界では生きていけない!ということはなんとなく知っていたので(笑)。
その上でダンスが必要だと思っていました。
それがいつの間にかダンスになっちゃったんですけど、なんでなんでしょう(笑)。
身体を動かすことの喜びは初めての体験だったので、その衝撃が大きかったのかもしれませんね。
ただ、
いろんな要素がミックスしているミュージカルが原点であることは、僕がエンターテインメントのいろんな世界を抵抗なく行き来できることに役立っていると思います。
--今は自在にエンターテインメントの世界を行き来する森山さんですが、もともとは人前でなにかするのが得意はなかったそうですね。森山さん)元々はそういうタイプです。
でも、僕はいろいろなチャンスや出会いに恵まれ、それに後押しされて人前に出るような立場に辿りついた感じです。
引っ込み思案というのも裏腹で、出せない、だからこそ出たいという願望があったんだと思います。それをなんとか押し出しているような…今でもそんなに人前に立ちたいと思わないんですよ(笑)。
--ダンスをしている姿からは想像できないというか…「舞台に出るの大好き!」ではないんですね(笑)。森山さん)大好き!では…ないですね。
ダンサーの場合はね、なんか求められる前に踊っちゃうようなサービス精神旺盛なタイプの方が多いですよね。僕は本当にそういうのがないんです。もっともっとサービス精神を持ってやりたいなと思いつつ、葛藤です。
でも、それが表現の中でもうまく活きているところもあるのかもしれません。
--例えばどのような。森山さん)僕はダンスで
“そこに居ることと居ないことを表現する”魅力に憑りつかれているんです。
よく言うのは、
「ダンスは自己アピールをするものでもあるけれど、ダンスをしながらここに居ないことを表現したい」ということ。
わけわからないことなんですけど(笑)、“そこに居ながら居ない”という体験をさせるための何か=ダンスに出会ったという感覚です。
--目に見えない何かということ…。名シーン!クロロック伯爵の♪抑えがたい欲望 では伯爵の内面を具現化
ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』2015年公演より
森山さん)『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で言うとわかりやすいかもしれない!
そこにクロロック伯爵が実在するのかしないのか。
リアルな人間じゃないところにヴァンパイアの魅力ってあると思うんですよ。生きているのか死んでいるのか、ずっと生きているって…。
--そしてその化身がヴァンパイアダンサー、クロロックの幻というか気化した何か(?!)ような。森山さん)そういう目に見えない何かというか幽霊とか、日本の文化とかにもたくさんあるんですよ。
文学にも、木に宿る神様とか、日本には強くあるんですよね。
器の中が空であることを表現する。そういった感覚が僕をダンスに導いているんです。
何かに対峙した時、必ずそこに行き着きます。
--今回のサーカスでも。森山さん)そうですね。
サーカスのクラウンは、実は“存在しているような、いないような”ミステリアスな存在だと思うんです。「あなたの涙を僕にください」って、クラウンを介して人の心に入っていけたら面白いけど、ちょっと怖い気もします。そういう
相反する感覚がこの作品のテーマになっています。
まだまだそこまで到達していないので、話せば話すほど自分を追い込んでいる気が…(笑)。
--楽しそうでもありますが、なんだか覗きこんだら深~いところに引き込まれそう。これから一か月半のお稽古を経て、どんな『サーカス』が立ち上がるのか楽しみです!そして、ヴァンパイアダンサーとしての実体のない何か…そちらも興味津々です。
素敵なお話をありがとうございました!【こぼれ話】--そういえば『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の日本版初代ヘルベルト役の吉野圭吾さんも音楽座出身ですよね。森山さん)圭吾さんは先輩です。僕は研究生として圭吾さんの背中を追いかけていた感じです。
座員で二枚目どころの踊れるキャラクターの圭吾さんとの共通点をひとつ見つけたんですよ、“手が長い”、それだけです(笑)!
その後、圭吾さんがプロデュースした『BORN』という公演に声をかけてもらい、圭吾さんの弟さんの役で出演したんですよ。
--そこからの久々のミュージカル共演だったのですね。
ちなみに、今後、ミュージカルの舞台で歌い踊る森山さんも見る機会もありそうですか。 森山さん)まぁ、あまりないと思いますけど、だいたいこの風貌なのでいろいろ限られますよね(笑)。
ただ僕はミュージカルを辞めたとも、コンテンポラリーの人になったとも思っていません。自分が経験してきたことが血肉となって表現してきているだけなので、創作においても、しゃべりたいし、歌いたいという気持ちはいつも持っています。そういった願望を持ち続けていることは、
ミュージカルからスタートし、その魅力を知っている僕にとって、ダンスという世界にいながら自分らしくいられる大切な要素だと思っています。今回の公演での芝居的なニュアンスとかもそうですし。
--ミュージカルに対する思いを伺っていると勝手に親近感が急上昇です。森山さん)そもそも、僕とかけ離れたミュージカルという世界に飛び込んでしまったということが僕にとって大きなことだったと思います。でも、確かにそこに惹かれたわけですから、かけ離れていたわけじゃなく
きっと何かを求めていたんですよね。それが今の自分を作っていると思っています。
--これからも幅広いご活躍を楽しみにしています!ヴァンパイア・ダンサーで創り出す世界観から…カーテンコールでの弾けっぷりまで、目が離せません!!
★森山開次さんご出演★ミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」ハロウィンイベント&フィナーレ振付指導レポ新国立劇場『サーカス』森山開次さんインタビュー前編
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文・撮影) 監修:おけぴ管理人