紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演中のこまつ座 第149回公演 『夢の泪』。
開幕NEWS、
観劇レポートに続いて、物語の舞台となる「新橋法律事務所」の腕利きの弁護士・伊藤秋子役の秋山菜津子さんインタビューをお届けします。記事ラストには「新春学生キャンペーン」情報も!
撮影:宮川舞子
作品紹介
『夢の泪』は井上ひさしさんが新国立劇場のために書き下ろした「東京裁判三部作」の第2作目。「戦争」そして「東京裁判」を当時の市井の人々の生活を借りて見つめ、「東京裁判」の、そして「戦争」の真実を改めて問うた作品です。
物語の舞台は終戦から1年程経った、昭和21年4月から6月にかけての東京・新橋。焼け残ったビルの1階にある「新橋法律事務所」。そこの弁護士夫婦の妻・伊藤秋子が東京裁判においてA級戦犯・松岡洋右の補佐弁護人を務めることとなり、物語は大きく動き出します。そこに夫、娘、老弁護士、復員兵の助手、持ち歌の著作権を争う将校クラブの二人の歌手、娘の幼馴染の在日朝鮮人二世、日系二世の米陸軍法務大尉らが登場し、にぎやかで重厚なドラマを織り成します。むずかしいことをやさしく──井上ひさしさんから現代に響く力強く鋭いメッセージが歌と笑いを交えて届けられます。演出は栗山民也さん。
──いよいよ開幕した『夢の泪』。ご出演を決めたのは。この作品のこれまでの上演を観たことはなかったのですが、今回、台本を読んでお引き受けすることを決めました。その時点でも簡単な作品ではないとは感じていましたが、稽古に入るとこれは大変だという思いがどんどん大きくなって。栗山(民也)さんの指導のもと、だんだんと人物像が形作られていき初日を迎えることができました。初日が開いてからもドキドキの日々です。
井上先生の作品はこれまでにも何本か出演していますが、どの作品も群像劇で、自分が台詞をしゃべっていないときの居方もとても重要となります。独特の集中力を要する緊張感のあるお芝居です。『夢の泪』は東京裁判の話が軸にあり、さらに登場人物たちの人生や彼らが抱える問題をも内包する作品。本番ではお客様からエネルギーをいただけるのですが、やっぱり疲れますね(笑)。
──秋山さんらしい、キリッと背筋の伸びた凛々しい秋子先生。印象的な台詞がたくさんありますが、いきなり飛び出す「ただいま」がなかなかのインパクトです。あの低い声の「ただいま」は栗山さんの演出です(笑)。
──「考え続ける」、最後の台詞も心に刺さります。重みのある台詞ですよね。栗山さんも「この台詞がいいんだよ」と稽古中からおっしゃっていましたので、ちゃんと言わなければと身が引き締まります。
──とくに好きな台詞はありますか。うーん、いい台詞がたくさんあるので難しいですね。最後の台詞のような重みのある言葉も素敵ですが、意外と「ただいま」とか何気ない台詞が好きかも。「ただいま」「おかえり」「ありがとう」といった日常の言葉をないがしろにしないところに魅力を感じます。登場人物の暮らしが演劇の中でちゃんと語られる、井上先生はそこも考えて書かれているんですよね。
今回は専門用語というか難しい言葉もありますが、井上先生の書かれる台詞は、そのリズムが身体に沁み込むとしゃべりやすいんです。実際に演じてみて、こういう本を書ける方はなかなかいないことを実感しながら、素晴らしい台詞をしゃべらせていただいています。
撮影:宮川舞子
──『夢の泪』は歌もたくさんある作品です。台詞と歌の切り替えについてはいかがですか。もともとブレヒト的な音楽劇が好きなので、クルト・ヴァイルや宇野誠一郎さんによる音楽と芝居が一体になっているこの作品を楽しんでいます。私の中では歌も台詞も同じように捉えているので、会話からいつのまにか歌になっていくのも苦になりません。でも、そう思えるのは井上先生によって元の楽曲に歌詞・台詞が上手く当てはめられているからからなのでしょう。
──それが井上先生の音楽劇の豊かさを作り出すのですね。こまつ座、井上作品についてどのような印象を持っていますか。私が語るなんておこがましいですが。私が通っていた高校が2年間の演劇教育実験校に指定されたいわゆる演劇名門校で、そこでの演劇クラスの最終発表で井上先生の『十一ぴきのネコ』を上演しました。
──なんと!なかなかエッジの効いた作品を上演されたのですね!そうそう、高校時代ににゃん太郎とかやったんですよ(笑)。そうやって高校生の頃から井上先生の本を読んで芝居をしていたというご縁もあるので、井上先生の作品を主に上演されているこまつ座さんに出演する際には「心して臨まないと!」という気になります。
演劇クラスの仲間は3年間一緒だったので、私がこまつ座さんのお芝居に出るときは同級生たちも観に来てくれるんです。きっと『夢の泪』も!
──ちなみに秋山さんが演劇を始めたきっかけは。中学時代、いわゆる部活はバスケットボール部だったのですが、そのほかに課内クラブというものがありそこで週に1回、演劇をやっていました。卒業生を送る会で『夕鶴』を上演したとき、意外に評判が良かったんです(笑)。そこから先生方も「演劇に力を入れたこんな高校もあるよ」と探してくださって、先ほどの演劇クラスに繋がります。高校では演劇クラスのほかに演劇部にも所属していました。「縁」や「運」に恵まれていたと思います。
──舞台に立つ喜びとは。舞台は大変なこともたくさんあります。でも、最後にお客様に拍手をいただいたときは、中学生でも「あ、これか!」と思ったんです。やっぱりそれなのかな!
──それは舞台ならではですね。生(ライブ)であることは大きいですね。そして、演劇でしかできない「戯曲」というものがあり、井上先生の戯曲もまさにそれなんです。いきなり歌になったり、いきなり時空が飛んだり、それを舞台上で見せていく演出や演技を面白いと思いますし、なによりも好きなんです。
──『夢の泪』でも、栗山さんの演出で東京裁判という硬質なシーンから笑いあふれるシーンまでいろんな景色、ドラマが繰り広げられます。栗山さんの演出はいかがですか。厳しくスピーディーです。短い時間ですがとても集中力を要する濃い稽古です。その日のシーンを一度試して、それに対するとても細やかなダメ出しをいただく。丁寧な説明、その場面に描かれたことについてのお話、歴史的背景や井上先生との思い出を教えてくださいます。本作の稽古に限らず、栗山さんの稽古は、昔からとても勉強になるありがたい時間です。
──これまでにもたくさんの作品でご一緒されていますよね。栗山さんはどの作品も情熱や愛情を持って演出されますが、井上先生の作品のときは特に厳しい気がします。これは私見ですが(笑)。それは井上先生の存在がそうさせるのかなと感じています。一緒に創ってきたという思い入れの強さだと。
──我々観客も、そうやって井上先生の思いを繋ぐ栗山さんの演出、秋山さんをはじめとする俳優のみなさんの演技でこうして井上作品を観られることを改めて嬉しく思います。こういう素晴らしい作品がいつまでも残っていったらいいなと、私も思います。
──初日を迎え、改めて『夢の泪』をどんな作品だと思いますか。撮影:宮川舞子
まずはこの素敵な作品に出会えたことを嬉しく思います。そして、そこで描かれていることが今も変わってないことに驚きました。変えてこなかったのは、私たちなんだということも含めて。設定は1946年ですが、今に通じる作品、世の中に対する厳しさのある話ですが、そこに音楽や笑いが入るので、堅苦しい芝居ではありません。多くの方に、とくに若い方に観ていただきたいですね。私たちは、最後までしっかりとこの作品を届けていきたいと思います。
★「新春学生キャンペーン」開催★
残りの公演期間の日曜、祝日限定で、学生の方を対象に
●劇場受付にて学生証掲示で入場料を3,000円(高校生は2,000円)でご案内
●さらに学生3人組でご観劇なら、おひとり分のチケット代が無料に
●キャンペーンで観劇されたお客様全員にこまつ座オリジナルミニカレンダーをプレゼント
※中学生、高校生、大学生、各種専門学校、演劇養成所の学生の方対象
対象公演:4/21(日)、4/28(日)、4/29(月・祝) いずれも昼13時公演
舞台写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)監修:おけぴ管理人