本作の演出を手がけるのは、『炎 アンサンディ』『アルトナの幽閉者』などで演劇界から高い評価を受ける上村聡史さん。初めてのミュージカル作品演出となりますが、そこに立ち上がっていたのは、これまでの演出作と同じく“人間たち”のドラマでした。
装置の転換も暗転もほぼなし、休憩もなしの90分でみせる3人(4人?)の男女の10年にわたる物語。登場人物それぞれが抱えるマグマのような情熱に押し流され、動き出すドラマに身を任せる快感…やっぱりこれはロックコンサートではなくて“お芝居”です!
『グランドホテル』の死期が近づいた会計士オットー、そして『ジャージーボーイズ』の“天使の歌声を持つ”フランキー・ヴァリ役に続き、中川晃教さんが本作で演じるのは、危険で情熱的な男・トム。
伸びやかな高音が印象的だった『ジャージーボーイズ』とは180度違う、ささやくような低音ボイスがとってもセクシーで、中川さんの新たな魅力にドキドキ…! 伏し目がちで暗い表情のなかに熱い情熱を感じさせる“近づいたらヤケドする”系男子! まさか来年の春にはスヌーピー(『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』)に変身するなんて…信じられません。10年ぶりに再会した恋人に「Sara♪」と愛しそうに呼びかけるナンバーの色っぽさ、必見必聴です。
そのトムと危険な一線を超えてしまうサラ役を演じるのは、こちらもまた舞台出演のたびに違う顔を見せてくれる平野綾さん。百戦錬磨のミュージカル界の先輩俳優3人を相手に、ほぼ出ずっぱりで数多くのナンバーを熱唱。痛々しさを感じさせるほど、不安定に揺れ動くサラを体当たりで演じます。
音楽と芝居との融合を鮮やかにみせてくれたのはマイケル役の橋本さとしさん。歌詞がセリフになって耳に飛び込む安心感、ロックにシャウトする歌声はもちろん、表情や動きでマイケルの切ない心を見せてくれるのは、やはり芝居力あってこそ。物語前半でみせる優しく知的な雰囲気と、サラを問い詰めるキレた迫力のギャップ。ギュインギュインと響く低音ベースにのせた叫びが胸に刺さります!!
3人の運命を見つめるナレーター役で「良い意味で期待を裏切れるとおもう」と語っていた濱田めぐみさんは、オープニングの第一声から背中がゾクゾクするような存在感。クールに物語を進めているかと思いきや…舞台の奥で思わぬ激しい表情を見せていることも。彼女=ナレーターの役割は一体なにか。その謎が90分間ずっと頭を離れないはず。さりげなくサラと動きがシンクロする演出の恐ろしさもキーポイントです。
◆ この顔ぶれですから、歌がうまいのは当たり前(なんて贅沢!)。ロックでダークでエモーショナルなナンバーを歌いこなしたうえで、クルクルと変わる登場人物たちの感情をいかに客席に届け、“動機”に説得力をもたせるか。繰り返しになりますが、衣裳も装置もほぼそのまま、セリフもなし、90分で! です。これをやり遂げるのはきっと役者としての大きな挑戦。舞台の“上”からも観客の視線にさらされながらオーバーヒートしていく、刺激的な4人の関係は、これからさらに熱く燃え上がっていきそうです。
妻を愛する夫、夫を愛しながら過去も忘れられない妻、再び目の前に現れたかつての恋人に夢中になる男、そしてこの3人を見つめる彼女の眼差し…。4人の緊張が限界に達したとき、起こる事件とは?
なにもかもが終わったあとに、エンターテイメントの魔法も感じるミュージカル『マーダー・バラッド』。
兵庫公演は11月6日までの上演。4日(金)14時公演終了後には出演者によるアフタートーク開催。5日(土)12時公演はスペシャルアンコール実施、15時半公演終了後にはバックステージツアーが開催されます。(東京公演は11月11日から)
写真提供:梅田芸術劇場 写真撮影:森好弘
おけぴ取材班:mamiko 監修:おけぴ管理人