
昼夜、異なる個性の3つの役をつとめる【坂東新悟さん】。
おっとり優しい口調ながら、役者としての確かな覚悟も感じられるインタビューとなりました。
大阪に若手歌舞伎俳優7人が集結! 尾上松也さんを筆頭に、中村梅枝さん、中村歌昇さん、中村壱太郎さん、坂東新悟さん、尾上右近さん、中村種之助さん…と、成長著しい若手俳優が集まる、大阪松竹座「二月花形歌舞伎」がいよいよ2月1日に初日を迎えます。
午前の部の幕開けは『義経千本桜
(よしつねせんぼんざくら)』から「渡海屋
(とかいや)」と「大物浦
(だいもつのうら)」の場。兄・頼朝から逃れて九州へ渡ろうとする義経を、実は生き延びていた平家の一行が待ち受けていて…。尾上松也さんが立役の大役のひとつである知盛役に挑み、体に碇
(いかり)を巻きつけ海に飛び込む勇壮な場面が見どころの、重厚感溢れる作品です。
続いては、江戸・吉原仲ノ町を舞台にした華やかな舞踊『三人形
(みつにんぎょう)』。若衆、傾城、奴、それぞれの踊りや衣裳を「わあ、きれい!」「かわいい!」「かっこいい!」と難しいこと抜きで楽しみましょう!
午後の部はまた雰囲気が変わり『金閣寺
(きんかくじ)』で豪華絢爛な時代物の世界へ。謀反人・松永大膳にとらえられた雪姫を中村梅枝さんが演じます。姫が桜の木に縛り付けられる凄絶な美しさ、描いた絵に魂が宿る“歌舞伎ファンタジー”など見どころ盛りだくさん。秀吉をモデルにした人物も登場しますよ。
そして最後は若いパワー溢れる『連獅子
(れんじし)』! 親子の獅子の精を演じる尾上松也さんと尾上右近さんの迫力の毛振りをお楽しみに。
演目の見どころ解説や、配役など、公演詳細はこちらをチェック!
「壽初春大歌舞伎」に続き、二ヶ月連続で大阪松竹座登場となる
【坂東新悟さん】に、『義経千本桜』の義経役など、今回演じる役への意気込みや、歌舞伎の楽しみ方、同世代への思いを語っていただきました。
【坂東新悟さんプロフィール】
坂東新悟(ばんどう しんご) 初代 大和屋
平成2年12月5日生まれ。坂東彌十郎の長男。平成7年7月歌舞伎座『景清』の敦盛嫡子保童丸で初代坂東新悟を名乗り初舞台。女方を中心に活躍しており、古典のほか、コクーン歌舞伎、歌舞伎NEXTなどにも出演。平成26年から彌十郎との自主公演「やごの会」を開催。昨年は「やごの会欧州歌舞伎公演」としてヨーロッパ三箇所でも公演を行った。1月は大阪松竹座で昼の部の『吉例寿曽我』の腰元宇佐美をつとめた。◆【松也さんが演じる知盛と、対等に渡り合う義経に】
──普段は主に女方として活躍されていますが、今回の『義経千本桜』では立役として義経を演じられますね。新悟) 義経はこのお芝居に限らず、歌舞伎のさまざまな演目に登場するお役。子供の頃からの憧れでした。「渡海屋」「大物浦」の場以外の義経を演じてみたい気持ちもありますし、今回はまずその第一歩。やはり“義経”といいますと、お客さまにもそれぞれのイメージがあると思いますので、みなさんに納得していただける義経をお見せしなくてはいけないな、と身が引き締まる思いです。
──説得力が必要なお役ということですね。
新悟) 存在感、が大事だと思います。タイトルは『義経千本桜』ですが、義経自身が主役になる場面は実はなくて、その周りの人々のお話が中心なんです。義経は常に象徴のような感じでいなくてはならない。なかでも今回の「渡海屋」「大物浦」の場では、松也さんが演じる知盛と対等に渡り合うライバルであり、最後には男の友情のようなものも感じさせなくてはならないお役です。「この人には勝てない」と納得して、知盛が海へと向かう。そういう強さと存在感が必要になると思います。
──義経役の稽古はどなたに見ていただいているのでしょうか?
新悟) (中村)梅玉のおじさまに教えていただいています。義経はこのあと頼朝から逃れて落ちていくので、その悲哀も確かにありますが、この場面に関しては義経ではなく知盛の悲劇を見せなくてはならない。義経の哀しみはあまり出さなくて良い、と言われています。それよりも、知盛の企みもわかったうえで幼い帝を預かるところまで全てを義経が差配する。その源氏の大将としての“格”を出すことを大事にした方が良いと。僕はもともと女方で、どうしても優しい雰囲気になってしまいがちなのですが、今回は武将らしい雰囲気を出せるようにしたいです。これまでにも白塗りの柔らかい二枚目のお役などを勤めたことはありますが、それとも微妙にちがうお役です。いつもの自分は忘れて、挑もうと思っています。
◆【舞踊は難しいこと抜き。レビューのように楽しんでほしい】
──続く『三人形』では、義経役からがらりと変わって、美しい傾城のお役です。
新悟) 吉原にいる若衆、傾城、奴の3人を人形に見立てた、明るくて華やかな踊りです。難しいことは考えずに「わあー、きれいだな」と楽しんでいただきたいです。
──歌舞伎鑑賞初心者としては、“舞踊”というとちょっと身構えてしまうところがあります。明確なストーリーはないですし、動きや歌詞になにか大事な意味があるのかな、鑑賞のルールがあるのかな、なんて考えてしまって…。
新悟) 堅苦しいルールはないので、気軽に楽しんでいただければと思います。時間も短いですし、「ああ、きれいだな」と思っているうちに終わってしまいます(笑)。もちろん、歌詞や動きにまったく意味がないわけではないのですが、僕たち踊る側としても、すべての動きに意味を持たせて、歌詞やストーリーを表現しているわけではないんです。『三人形』も最後に3人揃って踊るところは当時の流行歌を取り入れています。昨年の「新春浅草歌舞伎」で『三人形』をもとに作られた『土佐絵』という演目を踊らせていただいたのですが、そのときに「最後は役を忘れて踊ってください」と教わりました。役や設定にこだわらず、レビューを観ているような気持ちで楽しんでいただければ嬉しいです。
今回一緒に踊らせていただく梅枝さんも種之助くんもとても踊りが上手ですので、2人に見劣りしないように食らいついていきたいです。3人それぞれが目立たないと駄目ですし、三者三様の踊りを楽しんでいただく演目だと思っています。
──ショーやレビューのように楽しんでいい、と聞いて安心しました! 前幕の義経役とのギャップも楽しみです。ギャップと言えば、午後の部の『金閣寺』では将軍の母・慶寿院尼役。これまた午前の部とは全くちがうお役に挑戦されます。なんでも歴代の慶寿院尼役のなかで新悟さんが最年少なのでは、とのことですが。
新悟) そうですね。最年少だと思います。このお役に決まったときには、思わず「…えっ?」と聞き返しました(笑)。年齢も位も高いお役で、これまで演じてこられた方々も、ある程度の年齢になってからされた方が多いので、はじめは「どうしたらいいんだろう」と戸惑いました。でもこういった若手の公演ですので、思い切って挑みたいと思います。
──義経と同じく、出てくるだけで観客を納得させる説得力が必要なお役ですね。
新悟) (中村)東蔵のおじさまに教えていただいていますが、セリフは一言ですし、動きも少ないお役。そのなかでどうやって品や格を表現するかが難しい。慶寿院尼を助けるために皆が金閣寺に集まるわけですから、出てくるだけで「位の高い人なんだな」と納得していただけるようにつとめたいです。
◆【舞台上のすべてを理解しなくてもいい。自分だけの気になるポイントを見つけて】
──先日まで、同じ大阪松竹座の「壽初春大歌舞伎」にご出演されていて、千穐楽後、一週間もしないうちに「二月花形歌舞伎」の幕が開きます。公演中は休演日もないですし、歌舞伎俳優のみなさんはいつ稽古をされているのか、といつも不思議に思っています。ミュージカルや現代劇の場合は大体一ヶ月くらい前に本格的な稽古が始まって、本番前に通し稽古があって…と、大体の流れの想像がつくのですが、歌舞伎公演の稽古がどのような段取りになっているのか、教えていただけますか?
新悟) 新作の公演では一ヶ月ほどかけて稽古することもありますが、今回のような古典の場合は、全体でお稽古するときには、自分の役の動きはすべてわかっていることが前提です。出演者が顔を合わせて稽古が始まるときには動きを合わせるだけ、ということがほとんどですね。稽古の前に各自で作っておく。もっと言えば、今回の『義経千本桜』や『金閣寺』などは頻繁に上演される演目ですので、自分が出ていなくても普段からよく見て、覚えておくことが前提です。芝居を見る、先輩に聞く、自分で繰り返し稽古する、ということですね。舞台に上がらないときでも、常に勉強していることが前提になっている世界なのかなと思います。
──歌舞伎で描かれる世界、物語、倫理観などは、現代の日本とは隔たりがありますし、言葉も現代の日本語とは少し違います。両親とも戦後生まれ、という世代からすると、まるで異次元のように感じる世界観もあります。新悟さんたち花形世代の役者さんも、歌舞伎のお家に生まれたとはいえ、馴染みのない言葉や動きなどがたくさんあるのではないかと思いますが…。
新悟) 確かに、舞台の上でしかやったことがない、という動きや所作などはたくさんあります。昔はもっと日常的に着物を着ていたでしょうし、部屋に火鉢があったり、煙草がキセルだったりすることがもっと普通だったかもしれません。僕たちの世代は、実際には経験のない「生活のなかの動き」を舞台の上でしなくてはいけないので、先輩方に聞いたり、昔の映像を見たりして勉強します。言葉やストーリーについても同じです。ただ、お客さまに関して言うと、舞台上の全てを理解しようとしなくてもいいと僕は思います。簡単なあらすじは読んできたほうがわかりやすいかもしれませんが、意味がわかる言葉だけを耳で拾っていっても充分楽しめます。それこそ僕たちが子どもの頃は、ストーリーや役の設定がわからなくても楽しんでいました。
人によって興味を持つポイントは違うかもしれませんが、歌舞伎は総合芸術ですので、きっとどこか楽しめるところがあります。例えば今回のような花形公演でしたら、若い世代の方が「自分と同じ年頃の役者が出ている」「あの人素敵!」という興味で見ていただいてもいいですし、踊りがお好きな方なら、舞踊の動きや衣裳、メイクなどを楽しんでいただけるかもしれません。なにかひとつ、ご自分の好きなポイントを見つけていただくと、歌舞伎の世界にハマってしまうかもしれません。みなさんぜったいに、どこかに気になるポイントがあるはずです。幕間に好きなお弁当を選んで食べる、というだけでも楽しいイベントですよ(笑)。まずは、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。一幕ごとに気軽に観劇できる幕見席もありますのでご来場お待ちしております。
◆
最後に、義経役をイメージしてキリッとした表情をリクエスト♪
おお!ふわっとした優しい雰囲気から一変!
“説得力のある”義経役、楽しみにしております!
「歌舞伎」がぐっと身近に感じられる若手中心の花形公演。大阪松竹座「二月花形歌舞伎」は、2月1日(水)から25日(土)までの上演です。
自分だけの“歌舞伎大好きポイント”、みなさまぜひ劇場で探してみてくださいね!
<こぼれ話♪>
──公演中全日程で、出演者による「ご挨拶」の実施も決定した「二月花形歌舞伎」。口上や、ご挨拶は、役者さんたちの素の顔が垣間見られるような楽しい時間ですが…新悟さんはアドリブなどを盛り込んだ「ご挨拶」はお得意ですか?
新悟)
…僕、アドリブはすごく苦手ですね(笑)。事前にしっかり決めてしゃべらないと頭が真っ白になるタイプです。自由にトークができるイベントならまだいいんですけど、“ご挨拶”の場合は、そのあとにお芝居があるので、あまりくだけすぎてもいけないですし、このバランスが難しいですね(苦笑)。
──二ヶ月連続での大阪公演。自宅に戻れないとお疲れも溜まるのでは…。健康維持の秘訣は?
新悟) とにかく加湿器はつねに稼働させています。あとはいま体重を増やそうとしているのでプロテインを摂取しています! …これは健康維持じゃなくて、体作りですね(笑)。あとは…ひたすら気合で乗り切る! 最近気がついたのですが、ちょっと具合悪いかもしれないというときに、「具合…悪くない!」と思い込むことが大事です。「意外と大丈夫」と一回ちょっと思ってみる。これが意外と効きます(笑)。
──なるほど、肝に命じておきます! ところで、そうやってリラックスしてお話されている表情、やっぱりお父さま(坂東彌十郎さん)に似ていらっしゃいますね!
新悟) 最近よく言われるようになってきたんですけど…女方としては複雑な気持ちです(笑)。26歳、等身大の新悟さんが感じられるかも!? 坂東新悟さん公式ブログはこちら
おけぴ取材班:mamiko(文、撮影) 監修:おけぴ管理人