この芝居は人間の誇りを思い出させてくれる。(おけぴに寄せられた感想より) 昭和21年7月、日本放送協会の一室。
生き別れた肉親や知人の消息を尋ねる人々の声を、ラジオを通して全国へ送り届ける新番組「尋ね人」の制作現場で奮闘する人々のもとへやってきた一人の青年。
「ラジオで私をさがしてほしい」 記憶を亡くした青年の「自分探し」を手伝ううち、ラジオ局の人びとも自分自身を見つめることになり…。井上ひさしさんが描いた敗戦のひとつの真実。

写真左より)尾上寛之、吉田栄作、大鷹明良、朝海ひかる、枝元萌、八幡みゆき、平埜生成
脚本班分室長の川北京子(朝海ひかるさん)をはじめとする三人の女性分室員(枝元萌さん、八幡みゆきさん)、放送用語調査室主任の佐久間岩雄(大鷹明良さん)、占領下日本の放送を監督するCIE(民間情報教育局)のラジオ担当官・日系二世のフランク馬場(吉田栄作さん)、組合のストライキ運動に精を出す高梨勝介(尾上寛之さん)、そして記憶を亡くした山田太郎?(平埜生成さん)。それぞれに事情を抱えた7人が、この一室で繰り広げる物語。
さらに朴勝哲さんのピアノ、井手茂太さんの振付(「耳を傾ける~」ところ振りがナイス!)の歌も効果的に登場する『私はだれでしょう』。
【舞台写真と感想で綴る開幕レポート】
◆正しいこと、正しく考えること、「正しく」を教えることは大変難しい。
一年一年平均寿命に近づいている私であるが、恥ずかしながら自ら「正しく」考えるということを受け止めることができるようになったのは、この国の仕組みの中で生きることからいささか距離を置かせてもらえるようになってからのような気がする。
端的に言えば、常に権力に近いところに身を置いて、あるいは権力が施すエサというちっぽけな経済的利益に盲目的にたかっていたような気がする。
この芝居は人間の誇りを思い出させてくれる。普通に考えれば当たり前のことをこうして訴えなければ世の中の歪みに気がつかない世の中になってしまっている。
最近の国の歪みが今に始まったことでないことに気づくとともに、悲惨な経験を繰り返すことのないように、当たり前の生活と行動を繰り返していきたいものだ。
それにしても、井上さんの言葉の力は凄いとしか言えない。
また、美しい。
◆「こまつ座」初めて観劇しました。井上ひさしさんだから、重くて暗くて長い…というイメージがあり…なかなか行く勇気がありませんでした。今回、 朝海ひかるさんと吉田栄作さんに惹かれ観劇した所、音楽劇で 3時間も苦でなかったです。内容は 終戦直後の占領下の時代で重いですが、その中で、何とか自分らしく(人間らしく)ありたいという気持ちからの行動に胸を打たれました。
◆社会的な地位などに縛られて自分を見失っている人に見てもらいたい作品。平埜生成演じる山田太郎?の強い生き様が見ていて元気を貰えました。◆登場人物全員の個性的なキャラクターはとても興味深いです。
どんな状況でも信念を曲げない強い女性は美人でキリリとした朝海さんはぴったりで、笑いの中に社会をチクリを刺す井上節は、大いに楽しめます。
◆笑いあり、涙ありのこまつ座らしい安心感のある展開と、いつもよりちょっと多めの歌で楽しく進む3時間です。
でも、物語の結末は、現代に生きる者へ「提出期限のない宿題」を持たせるような、ほんの少し重い、にがいものでした。戦後まもなくを舞台に描かれるエピソードのひとつひとつが現代的で、今再演される意味を考えさせられました。◆井上先生のいつもの、あたたかさと笑いに満ちた中に、一本ピシッと通ったものの見方を感じる作品でした。朝海さん演じる京子さんの、舞台上での佇まいの美しさが忘れられません。
◆往年の井上ひさしの音楽劇にただ堪能。現在の仕掛けの多いミュージカルの原点ともいえる作品。
ピアノ一台あれば、あとは演じるほうがそのつもりになれば何にでもなれる。
◆爽やかで凜として、しかも人々の可愛さに嬉しくなる舞台です。
戦争の暗雲の中でどんな怪物がうごめいていたのか、ひとりひとりがどんなに足掻いていたか…など胸を押し潰されそうなテーマなのに、です。朴勝哲さんのピアノは、井上ひさしの声が響きわたっているような素晴らしい演奏でした。
◆終戦により価値観が大転換され、GHQにおもねることが求められた時代に、人はどう生きるのか。記憶を失った彼だけでなく、その時代に生きた人すべてが、自分を探さねばならなかったのではないかと思います。
メディアは検閲され、正しい情報は提供されないとなると、自らの軸とするものを見つけるのも大変です。舞台は戦後すぐの時代ですが、現代を生きる私たちにとっても示唆に富む舞台でした。
◆朝海ひかるさんの凛とした立ち居振る舞いに目を奪われて、井上ひさしお得意のミュージカル「おもしろうてやがて恐ろしき世界」に引きずり込まれていく。
◆戦後、情報という権利を守るために闘った人々がいた。情報という魔物に翻弄された人達がいた。笑いとペーソスたっぷりに描く井上ひさし真骨頂の反権力。
時を経て、まさに2017年の今、書き下ろしたような痛烈で痛快なメッセージに眼が開く!
◆ベストキャスト!素晴らしすぎる!平埜さんはこれからスゴい俳優になる!
◆ベースは悲しい重い内容なのに、随所に笑いがあり、楽しい音楽劇のよう。
朝海さんのセリフが聴き取りやすく、7名の出演者それぞれが良い味を出していて、影の主役?平埜生成さんお初でしたが、素晴らしく惹かれました。
下手端舞台手前でのピアノ奏者朴さんの効果音、演奏もまるで8人目の演者でgood!
◆井上さんらしい、メディアに対するメッセージを受け取りつつも、今回はお仕事ドラマとして楽しめました。朝海さん演じる川北さんみたいな上司がいたらな。こんな職場なら頑張れるな。顧客への誠実な仕事と組織上部との板挟み、あー、あるあると思いながら観ていました。
登場人物を通して、プロフェッショナルとしての働き方、あるべき姿をガツンと見せてもらいました。
◆少ない人数の舞台ではありますが、かなりボリュームのある素敵な作品でした!お一人お一人が個性的で、それぞれの役割をしっかり果たしていらして、とても見やすかった! 『太鼓たたいて笛ふいて』のラストシーン、ちゃぶ台の上に残された湯飲み茶碗たちが忘れられません。妙な縁でひとところに集う人々のなかで生まれる絆。この作品でも、それぞれの事情を抱えながら生きている人々が、分室に集まってきます。そこでしゃべって、分かち合って、笑って、泣いて、考えて、乾杯して…。どこか劇場に集う人たちにもそんなことを感じます。
そして、ラスト、分室のテーブルの上には。ぜひ、劇場でご覧ください!
舞台写真提供:こまつ座 感想寄稿:おけぴ会員のみなさま
おけぴ取材班:chiaki(文) 監修:おけぴ管理人