ミュージカル『グランドホテル』にご出演の
成河さんと
伊礼彼方さんにお話をうかがいました。劇中、成河さんは重い病を患う元会計士オットー・クリンゲライン役、伊礼さんは若くハンサムでとても魅力的な貴族ながら、実は多額の借金を抱えているフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵役、ともにホテルの客として出会うお二人は…公私ともに相思相愛(?!)。
面白おかしく、それでいて、ふと気が付くとお芝居の核心に迫る…おけぴレポ史上最大振り幅でお届けする対談、スタートです!
──ミュージカル『ハムレット』にて初共演、そこで意気投合されたお二人。まずはお互いにご紹介いただけますか。伊礼さん、成河さんはどのような方ですか。
写真左から)成河さん、伊礼彼方さん
伊礼)
紹介?!紹介出来るほど知らないですけどね。──え?(心の声:先ほどのやり取りはなんだったの…)伊礼)
ハハハ(笑)。
まあ、僕は、成河くんに惚れているんですよ。知り合う前から舞台を見ていて、彼の持っている表現力、それは僕にはまねのできないものなので、素直に「すげーな」と思っていました。中でも『BLUE/ORANGE』(2010年)は強烈だったな。小さな箱(劇場)でね。本当に魅力的な人、役者です。──成河さんから見た伊礼さんは。成河)
とにかくこの色気ですよ。そして優しくて兄貴肌でね。
僕は大小さまざまな規模の作品に出演していますが、プロダクションが大きくなると関わる人も増え、どうしてもよそよそしくなりがちなんですよね。でも、伊礼くんはどんな現場でもその姿勢が変わらない、オープンマインドで、すごく正直な人。僕は彼のそういうところにすごく助けられましたし、素敵だなと思うんです。
よく知ってるでしょ、よく見てるでしょ!伊礼)
確かによく見てるわ(笑)!成河)
いっぱい監視カメラ仕掛けているから(笑)。伊礼)
おいおい、ちょっと待て。危ない奴だよ、それじゃ(笑)。成河)
でね、そういう魅力的な人だからキスをしたくなるんです。伊礼)
なんだよそれ、最終的にはそこかい(笑)! ──共演は『ハムレット』以来ということですが、本格的に舞台上でガッツリ絡むのは初めてになりますよね。(
『ハムレット』おけぴゲネプロレポ/
おけぴ稽古場レポ)
成河)
『ハムレット』では芝居の絡みはあまりありませんでしたが、そうそう、舞台袖でずーっと二人で歌っていたよね。伊礼)
そうそう!二人ともエアロスミスが好きでね。成河)
そう、洋楽バンドが好きという繋がりもあるよね!伊礼)
(『ハムレット』公演には)生バンドが入っていたのですが、そのドラムセットをお借りして、僕がそれを叩いて、成河くんが歌ってね。つまりドラムとボーカルのみという…(笑)。成河)
俺も俺も!って、たまにドラムを替わったりしながら、思い切り歌ってたねー(笑)。伊礼)
村井國夫さんに何度怒られたか。静かにしろ!って(笑)。成河)
まるで中学生みたいにね。伊礼)
だねー(笑)。本当に中学生みたいだったね、あの現場。
成河)伊礼くんといるといつでも中学生に戻れる気がいたします。そんな人です(笑)。 ──時を経て、『グランドホテル』でも、またあのころに戻れそうですか(笑)。成河)
戻れるというか、エスカレートしているんじゃないですか(笑)。伊礼)
やばいよね。成河)
でも、実際、そうなれたらいいなっていう思いもありますよね。そんなガチガチになってもね。もちろん芝居に対する勉強はしますよ、でも、それと同時に楽しまないと!伊礼)
そうそう!──そうなると今回の稽古場は。成河)
まあ、暑苦しいと思いますよ、僕らのチームは。※RED/GREENダブルチームで上演されます伊礼)
だろうね。こっちのチーム、オットーと男爵のキス長くない?種類が違くない?みたいな(笑)。成河)
怒られるな、僕たち(笑)。どうしても話がそこに行っちゃうね、ちゃんとしよう!
ちゃんとしよう!
──成河さんはすでに演出のトム・サザーランドさんにお会いになったそうですが、トムさんにはどんな印象を持ちましたか。成河)
トムはオフウェストエンドで創作ミュージカルを手がけてきた人なんです。そのキャリアに裏付けされた信頼感を強く感じました。僕、このようなグランドミュージカルは初めてで、どうかな…という思いも抱いて会いに行きましたが、なんていうかそういうモヤモヤを払拭してもらったというか。これは演劇だから、完全にお芝居だからというスタンスを感じました。
200~300人規模の小さな劇場で、ミュージカルというものを根っこから立ち上げてきている、その上で商業ベース、興行として作る術も知っている人というところで、すごく信用できるなというのが印象です。ちょっと偉そうですが、まぁ、僕のほうが年上なんでね(笑)。伊礼)
そうなの!成河)
トムは31歳、僕は年下の演出家と仕事をするのが初めてなんです。もしかしたらそういった世代的なところもあるのかもしれませんが、少し会っただけで、芝居作りの精神を共有できるなと直感的に思えたんですよね。
そして、僕が演じるオットーは、本来、もう少し年配の役者さんが演じる役なんですよね。映画版と比べても僕もGREENチームの中川(晃教)さんもかなり若い。きっと、多くのみなさんが「若いけれど大丈夫かな」と思っているでしょう。
でも、そこはトムを信用していただきたい。というのもトムは(脚本を)書ける人なんです。僕らの実年齢に合わせた設定でキャラクターを作っていける、頼もしい演出家です。両チームで結末も変わるみたいですしね。──稽古場でそれぞれのチームの個性で作られていく、ふたつの新しい『グランドホテル』の誕生が楽しみです。
そのような自由度をもつ一方で、この作品は、非常に長きにわたり愛されています。その点はどう感じていますか。伊礼)
僕がこの作品の普遍的な魅力として感じているのは“ホテル”という設定、シチュエーションです。 ホテルというのは、それまでまったく関わりの無かった人々がそれぞれの人生の歩みの中で一瞬だけ交わるような、全く知らない者同士が出会う場所でもあるんですよね。成河)
それも偶然にね。伊礼)
そして、出会うことで人生が変わっていく、そんな奇跡が重なっていく…、それが面白いと思うんです。成河)
さらに面白いのが、それを俯瞰して眺める作品であるということ。ひとつひとつに答えを出していくのではなく、わりと突き放して物語を眺めていると最後に浮かび上がってくるものがある。結局、ホテルそのものが主役なんだろうな。──『グランドホテル』がタイトルロールですね(笑)。そして、そのホテルに集う人々の群像劇、そこでは一人ひとりのキャラクターが明確である必要も出てきます。成河)
そうだと思います。
ただ物語をなぞっていれば面白くなるというわけではないですよね。アプローチの方法は幾通りもあると思いますが、役者はただただ純粋にその役としてその場に存在する、それを演出家が俯瞰して配置していく、その先に見えてくる画が群像劇になるんじゃないかな。
そう考えると、群像劇の命綱は、一色でないこと。いろんな色、その多様性を見ていることの面白さが肝心なので、稽古の中で、もし一色に染まっていきそうになったら、僕たちが二人して思いっきり別の方向に走ってみようと思っています。そういうところは似ているんですよね。──エキサイティングな熱い稽古場になりそうですね。成河)
まぁ、この人、頑固なんでね。伊礼)
君に言われたくないよ。成河)
はい、頑固兄弟なんです(笑)。伊礼)
だってね、頑固じゃないといけないんですよ。出るからにはいいものにしたいし、しなくてはいけない!そのためには演出家とも戦うし、共演者とも戦う。それができない環境だったり、そうしないことに慣れてしまったりというのは違うと思うんだよね。成河)
そうなると、クリエイションでもなんでもなくなっちゃうよね。──お互いに芝居作りをするうえで、頼もしい共演者ですね。
頼もしいですよね(成河) 違う違う(伊礼) 成河)
僕はミュージカルや歌をきちんとやってきた人を本当に尊敬しています。伊礼くんのパッション溢れる歌声に惚れ込んでいるので、一緒にお芝居しながら背中を見てこっそり盗むというか、教えてもらおうと思っています。
僕はミュージカルについて、技術も、知識もまだまだ全然ですが、ただ、ダメだダメだと思っていてもしょうがないですからね、稽古場では「君さぁ、ここはさぁ…」なんて言いながら、家で猛特訓します(笑)。
その点でひとつ残念なのは、オットー役ダブルキャストの中川さんと一緒にできないこと。舞台上で中川さんの背中を見たかったなというのはあります。伊礼)
僕は成河くんが持つ身体能力、瞬発力に期待しています。助走なしで10mくらい跳ぶような軽快さを動きでも芝居でも見せてくれると思うんですよね。それがオットーという役にピッタリだなと思うんです。成河)
軽快さが役の哀しさとリンクすると面白いよね。
オットーというキャラクターは余命を宣告されたサラリーマンの会計士。お金やステイタスへ憧れや執着を持ってホテルにやってきた男がどう変化するのか。それは作品のテーマでもあると思うんです。僕自身、どこまでそこに執着できるかが、今回の肝になるでしょう。死期が迫ったとき、僕はたぶんそう思わないんでね。逆を選ぶと思うんです、小さく小さく、人を少なくしてね。──そして、オットーと鏡写しのような男爵を伊礼さんが演じる。その化学反応が今からとても楽しみです。では、最後にこの作品を楽しみにされているみなさんにメッセージを。成河)
とても華やかで、同時に影もある。人生の厳しさと愛おしさを同時に教えてくれる作品になると思います。それを観客のみなさんと一緒に味わうことができるように、しっかりと準備し、素敵な『グランドホテル』を作り上げたいと思います。伊礼)
成河と伊礼彼方が一緒にやれる作品はもう二度とないかもしれません(笑)。この二人がどうなるのか…面白いことになるのは間違いないでしょう。僕も、成河くんもとことんまで諦めないタイプなんでね(笑)。そしてこの座組み、見るからに諦めない役者陣が集まっていますよね。成河)
たぶんトムもそうだよ。あの感じ、絶対諦めないよ!!伊礼)
やっぱり!ますます面白いことになりそうだね。──諦めない演出家と役者さんが作り出す群像劇、期待しています!
ロックな精神とストイックな役者魂、そしてヤンチャな遊び心、そのすべてを持ちあわせたお二人が、どんなドラマを紡ぐのか、ぜひ劇場で確かめましょう。【たとえばお二人に公演チラシをお渡しすると…】

僕らが持つならやっぱりこっちでしょ!(色が…)

もう一息!(上下が…)

やりすぎです!!
この一連の流れが打ち合わせなしで自然と繰り広げられるお二人。
「本当に考えることが一緒なんだよね、僕ら」(伊礼さん)【作品紹介】
舞台は1920年代の大都市ベルリン。
華やかな「グランドホテル」に集う 境遇の異なる人々が織りなす人間ドラマ。
一つの場所にさまざまなバックグラウンドを持つ人が集い、めくるめく人間ドラマを展開する表現技法を“グランドホテル形式”と呼ぶことにも象徴される、群像劇の傑作。演出を手掛けるのはミュージカル『タイタニック』(2015年)にて、その手腕をいかんなく発揮したウエストエンドの気鋭トム・サザーランド、RED/GREEN二つのチームで交互上演されることでも話題のミュージカル!
作品関連レポートは
こちらから
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) おけぴ管理人(撮影)