新国立劇場『あわれ彼女は娼婦』稽古場レポート

 衝撃作『あわれ彼女は娼婦』が栗山民也さんの演出で新国立劇場に初登場!シェイクスピアやクリストファー・マーロウなど名立たる劇作家を輩出したエリザベス朝演劇の終盤を代表するイギリスの劇作家、ジョン・フォードの名作戯曲!



撮影:安藤 毅


 中世のイタリア、パルマを舞台にしたこの作品。兄妹が愛し合うという最大級のタブー、ローマ教皇使節の枢機卿を頂点とする権力構造…若干の敷居の高さも感じつつ向かった稽古場で、まず、目に飛び込んできたのは歪んだ赤い十字架を模した八百屋舞台。戯曲から感じたものが目の前に提示されたような、奇妙なまでの“しっくり感”がそこにありました。

 そして、抽象的な舞台とうらはらに、そこに立つ人々は生々しい。繰り広げられるのは一筋縄ではいかない登場人物がそれぞれの理屈で発する言葉が飛び交う壮絶な愛憎劇。
 その中心にいるのは将来を嘱望される若者ジョヴァンニ(浦井健治さん)とその妹、類まれな美貌のアナベラ(蒼井優さん)。(浦井健治さん&蒼井優さんインタビュー

 この日の稽古は、罪深き兄妹の運命の歯車がよからぬ方向へと動き出す場面。



ここで届けられるジョヴァンニの言葉は傍白(いわゆる心の声)


裕福で魅力的な貴族ソランゾ(伊礼彼方さん)からの求婚を拒絶するアナベラ


 アナベラとソランゾのやり取りを傍から見ているジョヴァンニ、妹の愛を確かめるようなひと言ひと言は、短いながら強く知的。一方、ソランゾは愛の言葉をこれでもかと発し、アナベラはそれを丁寧に、でも明確に拒否。強さと透明感のある蒼井さんの声、甘く響く伊礼さんの声、少し距離を置いたところから響く浦井さんの切実な声、このアンサンブルがなんとも心地よいのです。(そのやりとりは愉快なものではないのですが…)

 その後、のっぴきならない事態が生じ、兄妹のまっすぐで深い想いはここから一気に破滅へと突き進むのですが…。



兄妹の父フローリオ(石田圭祐さん)と養育者プターナ(西尾まりさん)


 ジョヴァンニとアナベラの狂おしいほどの愛を軸に進む物語ですが、この作品のもうひとつの面白さは、その周囲の人間ドラマ。そのキャラクターも俳優さんも強烈で…なんて贅沢!



ジョヴァンニが慕う修道士ボナヴェンチュラ(大鷹明良さん)
修道士は二人を救うのか…


医者に変装したリチャーデット(浅野雅博さん)の思惑は…
ちょっとおバカなバーゲット(野坂 弘さん)のアグレッシブな愛情表現!?が笑いを誘います


復讐に燃えるリチャーデットの不実な妻ヒポリタ(宮 菜穂子さん)とソランゾの召使ヴァスケス(横田栄司さん)



 この日公開された稽古の中で、実は一番、気持ち悪さを感じたというかゾゾっとしたのは、ローマ教皇使節の枢機卿(中嶋しゅうさん)が殺人を働いたローマ市民グリマルディ(前田一世さん)を裁くシーン。



「え、そんなのあり?」この違和感は後を引くような…


 この“実力派軍団”のなかで、ひときわ曲者ぶりを発揮していたのが、先日のインタビューにもご登場いただいた、ソランゾとその召使ヴァスケス役の横田栄司さん。(伊礼彼方さん&横田栄司さんインタビュー

 アナベラへの愛を雄弁に語るソランゾの貴族の優雅さと美しさにはうっとり。そこからの展開での激昂ぶりに見え隠れする悲しさ…。そして、常にソランゾの傍らに居るヴァスケスの存在感!ヴァスケスの働きっぷりも注目です。




この人物配置だけでもゾクッとします!
かぶり付きや引き、上手や下手、それぞれの角度から見ると、ドラマがまた違って見えるでしょう…


 ジョヴァンニとアナベラ、二人の愛が純粋であれば純粋なほど、濁った大人たちの思惑が浮き彫りになる。そんな様子を見ているとざわざわしてくる心、それをマリンバの生演奏が増幅させるという素敵な仕掛けも(作品世界にピッタリな音色!)。

 400年前に書かれた戯曲というと、“古典”の2文字が重くのしかかるようなイメージですが、実際には言葉はたしかに日常会話とは違うものの、描かれているのは人間の業です。運命や周囲の思惑に翻弄されていく人々の姿はときに滑稽に、悲しく映ります。そして、意外にも(?!)展開が非常にスピーディー、疾走感をもって行き着く先は…ぜひ、劇場で見て、感じて、考えましょう。きっと栗山さんですから、今の私たちに響く余韻を残す作品として見せてくれるでしょう!

 




 そして何より、新国立劇場中劇場の空間でこのセットで繰り広げられるガチの演劇ですよ!美しさ保証、人間ドラマ濃い目保証、ざわめき保証、その上で終演後に何を思うのか、それが今から楽しみです。


<参考記事リンク:エリザベス朝演劇>
新国立劇場「リチャード三世」稽古場レポート
新国立劇場『エドワード二世』稽古場レポート
新国立劇場『テンペスト』開幕レポート 

【公演情報】
『あわれ彼女は娼婦』 2016年6月8日(水)-26日(日) 
新国立劇場 中劇場  おけぴ劇場マップ【新国立劇場 中劇場】

<スタッフ>
作:ジョン・フォード
翻訳:小田島雄志
演出:栗山民也

<キャスト>
浦井健治 蒼井 優
伊礼彼方 大鷹明良 春海四方 佐藤 誓 西尾まり 浅野雅博 横田栄司
宮 菜穂子 前田一世 野坂 弘 デシルバ安奈
川口高志 頼田昂治 寺内淳志 峰﨑亮介 坂川慶成
鈴木崇乃 斉藤綾香 髙田実那 大胡愛恵
石田圭祐 中嶋しゅう

ものがたり:
中世のイタリア、パルマ。勉学に優れ、人格的にも非の打ち所がないと将来を嘱望されるジョヴァンニは、尊敬する修道士ボナヴェンチュラに、自分の心を長く苦しめてきた想いを打ち明ける。それは、類まれな美貌の妹アナベラを女性として愛しているという告白だった。ボナヴェンチュラは叱責するが、ジョヴァンニは鎮まらず、アナベラに気持ちを伝えてしまう。するとアナベラもまた、兄を男性として愛していたことを告白する。そして兄妹の運命は......。

公式サイト

おけぴ取材班:chiaki(文・撮影) 監修:おけぴ管理人

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