
「ようこそ、僕のショーへ。さあ、ここからは僕の物語…!」
持ち味にぴったりハマった役柄で輝く、紅ゆずるさん。
これはまさしく、星組スター・
紅ゆずるさんのはまり役!
(ちょっと気が早いかもしれませんが、ぜひぜひぜひ、再演をよろしくお願いいたします!)すこしも悪びれない
極上の笑顔で、ときにパイロット、医者、弁護士と身分を偽り、ニセ小切手をきって、あっさり大金を手にしてしまう、実在の詐欺師フランク・アバグネイル Jr.をモデルにした
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』。
お芝居…だけど、ショータイム!
はちゃめちゃコメディ…だけど、気づけば涙じんわり、のち、心あったか…♪
東京赤坂ACTシアター公演に続き、6月29日に初日をむかえた梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演の模様をお届けいたします。
【まるであて書き!? 役とスターの個性が重なり増幅する幸福感!】
「CATCH ME IF YOU CAN !=「つかまえられるものなら、つまかえてみな(鬼さんこちら♪)!」タイトルのとおり、紅ゆずるさん演じる天才詐欺師と、彼を追い続けるFBI捜査官(七海ひろきさん)とのかけひきを描いた“追いかけっこもの”である本作。
(スティーブン・スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリオ&トム・ハンクス共演の映画版や、昨年上演された東宝ミュージカル版をご覧になった方ならご存知ですね♪)…なのですが、これは紅さん演じる少年・フランクが「愛する“家族”」を手に入れるため、手足を必死にバタつかせ、もがきながら、なんとか生きのびる物語でもあるんです。
(←これが今回のレポのポイントでございます)完全無欠のヒーローだった父(専科・夏美ようさん)と、フランス人形のように美しい母(夢妃杏瑠さん)。心から愛していた両親が別居したことからはじまった、フランク少年の心の崩壊。
16歳で家を飛び出した彼は、身分証を偽造し、年齢や職業を偽り、まるでゲームをしているように軽々と世間を渡っていくのですが、その調子にのった、ふざけているようなふるまいの中に、
ふと見せるさみしげな表情…紅さんの細やかな演技が光ります!
幕があいてから30分以上、ダンスに歌に、長セリフに舞台上での衣装替えなど、そでに引っ込む暇もない、紅フランク。
テンポの良さ、観客の呼吸のつかみ方は「さすが!」の一言。さらに今回は“やり過ぎ”にならない、ちょうどいい“さじ加減”にも大いに拍手を送りたいところです。
(パイロットの制服から、お医者さんの白衣姿まで、“紅ゆずるコスプレショー”もカッコよすぎる! しかもその設定が実は18歳から20歳そこそこというのが、また…いいっ!)
物語に絡む役は少ないですが、
さまざまな衣装で登場&ダンシング♪ な娘役のみなさまにも大満足!
キュートなアメリカン・コスプレに眼福♪
【祝・星組デビュー! ビジュアルの作り込み、役作りに脱帽】
「ぴったりはまり役」といえば、こちらの方も素敵な
星組デビューを飾りました。
紅フランクを追い続けるFBI特殊捜査官カール・ハンラティ役を演じた、七海ひろきさん。
(ソフト帽にメガネ、しわの寄ったクタクタのスーツ&サスペンダー姿。このビジュアルにはぜったいに七海さんと演出の小柳奈穂子先生のこだわりがつまっているに違いありません!)ビジュアルの作り込みはもちろんのこと、演者「七海ひろき」の持ち味、そしてタカラジェンヌとしての魅力と、カールという役とのすり合わせが素晴らしい!
真面目一徹、妻にも出て行かれたカール。彼がなぜフランク逮捕に執念を燃やすのか。
一幕ラスト、雪の降るクリスマスの夜にはじめてカールとフランクが電話で話すシーンの演技、にじみ出る父性にジーンと感動する名場面になっています。
如月蓮さん、瀬稀ゆりとさん、瀬央ゆりあさん演じるFBI部下トリオとのやり取りも、がっつりと客席の笑いを誘いますよ!
(如月蓮さんのあごヒゲ…こちらもビジュアルばっちり! FBI部下トリオ、力の抜けた演技がいいんです♪)
かっこ良くキメるダンスナンバーもあるのですが、
本レポではあえてこちらの写真をご紹介!
(ネクタイのゆるみも計算ずくに違いないっ)
このほか、
雪組『アル・カポネ』に続いての“パパ”役となった専科の夏美ようさんも、なんとも言えない“うさんくささ”と、息子を心から愛する良き父としての顔を無理なく両立させる好演。
二幕から登場するブレンダ役の綺咲愛里さんも、フランクを医師と思い込んで恋に落ちるヒロイン的役割を、きっちりとこなします。
ショーではキレキレの動きや、妖艶な雰囲気も出せる彼女ですが、今回は素朴な可愛らしさと力強い歌唱で魅せてくれました。どんな色にも染まれる力量、これからの活躍がほんとうに楽しみな娘役さんです!
(ブレンダの両親役、悠真倫さん&毬乃ゆいさんもナイスキャラ! うまいっ! 芝居としてもフランクの家族と、ブレンダの家族との対比がまた…ちょっと切ないんですよね…)
うん、こんなお医者さんがいたら恋に落ちちゃいます。
綺咲愛里さん演じるブレンダの天然っぷりもかわいい!
(フランクの正体がわかった時の「え!?ルーテル教徒じゃないの?」発言に爆笑♪)
【宝塚歌劇の新しい財産!】
ミルクの池におちた鼠のように、バタバタと必死にもがき続けるフランク。
彼がしていることは、れっきとした犯罪ですが…
「だけど、人生はいつだってやり直せる!」。はたして追い詰められた彼の目に見えたものとは…?
ショーアップされた楽しい展開に、ついつい物語の本質を忘れそうになりますが、この「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」というお話、“機能不全家庭”、“アメリカンドリーム”、“仕事と個人”…と実にアメリカ的なキーワードが満載。
主人公とヒロインとのロマンスも少しはありますが、けっしてそこが本筋ではなく、どちらかというと年齢の離れたふたりの男の友情、擬似父子関係がテーマになっている、“宝塚らしからぬ”作品なのです。
そこをまったく気にさせずに客席を大いに楽しませ、満足させてくれたのは、いまノリに乗っている演出家と、これからさらに大きく花開くべきスターの出会いがあってこそ!
舞台上、セットといえるのは2箇所の階段と、その上に丸く張り出したスペースのみ。
ほぼ転換なし、ノーストレスの演出は、もともとのブロードウェイ版を踏襲したところもありそうですが、やはり宝塚ならではの人数、みせ方を熟知して、原作舞台の持つ魅力と絶妙にミックスさせた小柳菜穂子さん演出の賜物ではないでしょうか。
「ようこそ、僕のショーへ。さあ、ここからは僕の物語」というセリフからはじまるショー仕立ての設定だからこそ、舞台上にオーケストラがのっていることにも意味がある!
(雪組『ルパン三世』でも原作マンガ&アニメの世界観と「宝塚」をあっと驚く発想で融合させていた小柳マジック! 次回作はギリシャ悲劇「オイディプス王」…楽しみすぎる!)
さあ、みなさま心のシートベルトをしっかりしめて!
新生・星組の誕生に向けて…テイク・オフ!
新トップスター・北翔海莉さん率いる全国ツアー組(「大海賊/Amour それは・・・」)と二手に分かれていても、この充実度!
実力派トップのもと、今回の主演で一皮むけた紅ゆずるさん、新風を吹き込む七海ひろきさんら、キラ星のようなスターたちが集結する、新生星組のスタートに大きく期待が膨らんだ今回の公演ですが、著作権等の関係でDVDの発売予定がない
(※現状では)ということ。
101年目からの宝塚歌劇の財産になりうる作品だと思いますので、ぜひ近いうちの再演を熱望! と記して、今回のレポは筆をおきたいと思います。
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演は7月6日まで。みなさまぜひお見逃しなく!
…と書いても、全日程完売ですので…やっぱり再演大希望!
おけぴ取材班:mamiko(文/撮影)、yone 監修:おけぴ管理人